StarDust Tears

『カラオケ行こ!』 / 『リンダ リンダ リンダ』

早稲田松竹
山本敦弘監督特集。

 『リンダ リンダ リンダ』をまたスクリーンで観たくて行った。DVD持ってるし、CDも買うたし、ノベライズ版まで買って読んだほど当時はハマった。当時つーても記録によると最初に観たのは2005年の公開時ではなく2009年だった。たぶんその時も早稲田松竹だな。

以下ネタバレあり。

 『カラオケ行こ!』はマンガ原作か、くらいの認識で観た。つい最近感想を見かけた気がするぞ、と思ったら今年公開の映画なのね。まだロングラン上映してる館もあるとか。早稲田松竹にかかるのがずいぶん早い。
 冒頭は綾野剛の関西弁がちょい微妙と思ったが後半は気にならなかった。順撮りでこなれたのかしら。ヤクザと中学生のバディもの、って自分の守備範囲では竹宮ゆゆこの『あれは閃光、ぼくらの心中』に近いものがあって、たぶんBL的には王道カップリングの一種なんだろうけど、こういうマンガどこでやってたんだろうと思ったらCOMITIAで出した同人誌が元なのね。なるほど。
 まあヤクザをコメディで描くこと自体が今の時代もうギリギリって感じはするけど、よく考えたら高校(中学でした)の部活絡みの話で恋愛沙汰もチラッとだけあって、かつ音楽映画でもあるというのは『リンダ リンダ リンダ』と同じではないか。リンダ~から20年近く経ってもまだ同じテイストの青春映画を撮ってるのがすごい。監督は私と同世代なんだな。
 カラオケって画面で客観的に見せられると決して音響もよくないわけだし延々やられたらキツいんじゃないかな、と思ってたが、ヘタクソなカラオケで笑わせるところも下品になりすぎず尺もテンポもよく、見せ方が巧かった。そのへんはさすが。クライマックスで声変わりを迎えた中学生の主人公がX JAPANの『紅』を絶唱するシーンは圧巻。よくこんな歌を撮れたなー。
 というわけでいい映画だった。評判いいしたぶんいい映画なんだろうな、とは思っても『カラオケ行こ!』という映画を観に行こう! とはなかなか思わないんだよな。監督つながりで追うこともあまりしてないし。てな感じでこういう映画との出会いはもう早稲田松竹くらいしかないのだった。

 そして久しぶりの『リンダ リンダ リンダ』ですが、感想をまとめたことはなかったのでこの際あらためて書こう。
 まずバンドものとして、「バンドがケンカで空中分解した直後」の時系列から始まるのが発明だと思ったんですよね。高校の文化祭でオリジナル曲を演奏する予定だった5人組のバンドが、直前にギターの子が体育で手を怪我してしまい、代わりのギターをサポートで入れようとするボーカルの子と、オリジナルメンバー以外ありえないとするキーボードの子が衝突する(この経緯は登場人物の会話の中で徐々に見えてくる)。どちらも間違いとは言えない意見の対立になってるのがよい。バンドの話をやるならこういうのを演出しないと! と思うわけです。モチベーションの差でちゃんと練習しない奴がいてキレるとか、金がなくてリハスタに入れない奴がいるとか、そういうどうしようもない話を。最近だとバンドリ!MyGOがそれで、まさにバンド解散劇から始まる。とにかく最短でプロになることに邁進する零落お嬢様がバンドに見切りをつけて脱退し、ずっと黙々と参加してた子は「今まで全然楽しくなかった」とか最後の最後で言い出したりする。残された子はバラバラになった旧バンドを再結成することに命がけで、別名義でそのバンドの曲を演奏したことにキレる、など。今までのバンドリシリーズで描かれなかったバンドのゴタゴタのリアルが描かれており素晴らしい。閑話休題。
 結局、メンバーを代えることをよしとしなかったキーボード(香椎由宇 as 恵)が自分がギターをやると表明、ボーカルの子(凛子)は抜きでブルーハーツのコピーを、別のボーカルでやる、という流れになる。
 韓国のJKにブルーハーツを歌わせる、という天才的な発想があって成立している映画だと思うのだが、今見るとなにげにオールスターキャストっぽいですよね。視点人物という意味で主人公に近い前田亜希(as 響子)は、我々の世代には『ガメラ3』の前田愛がカリスマ的人気があったのでその妹という印象が強いですが、こういう普通っぽい女の子にハマる。もともとドラムやってたらしいのでそれも大きいのかもしれないけど。個人的には『バトル・ロワイヤル』も好きだった。香椎由宇は私の中ではこの映画のロックンロールなイメージなんだけど、その後ビールのCMで引っ詰め髪に黒ぶちメガネかけてたりしてイメチェンしたのかなーと思ってたらオダギリジョーの嫁になってしまった。 Base Ball Bear の関根史織(as 望)は本人はどんな人かあまり知らないけど、いかにも女ベーシストというキャラを好演している。恵がジッタリンジンの歌詞「キリンが逆立ちしたピアス」がツボに入って笑い転げるのに対して望が「そんなに面白いか?」と冷静にツッコむシーンが好き。彼女(関根史織)がベーシストとして山中さわおのソロプロジェクトに参加してたりするのを見るのはなんか不思議な気分だ。
 そしてペ・ドゥナ(as ソン)である。どっちかというと「映画は脚本で7割は決まる」的な論を支持したい私だが、この映画はペ・ドゥナの歌でハネたというか、これナシで成立しえたのか? とすら思う。彼女以外にも画というか空気感で持たせているようなシーンが多々あって、シナリオ偏重になりがちな自分は目を洗われる思いである。こういう実例を見ないとなかなかわからないことなので、その重要性をつい忘れがちだ。しかしペ・ドゥナもその後は『空気人形』くらいしか観られてないなあ。観なければ。
 他にそのペ・ドゥナに韓国語で告白してフられるDKが松山ケンイチなどが知られていますが、今回は響子が好きな男子である大江くんに注目した。今まで背は高いけど坊主頭だしパッとしないな、と思っていて、響子がそれを好きになるのが妙にリアルだなと思ってたのだが、今回初めて、よく見るといい男になる素養があるんじゃね? と思って、調べたら小林且弥ってその後は仮面ライダーヘラクスになったりしてすげえイケメンじゃん! 松田優作の甥にあたるのか。知らんかった。響子は男を見る目があったのね!
 あと、関根史織の他にも本職のミュージシャンが何人か出ていて、最初に手を怪我したギタリスト役の湯川潮音as今村萌。それから留年した先輩の山崎優子as「たかっちゃん」が異様な存在感なのだが、最初の企画では彼女が主人公だったとか。当時ライブ観に行こうと思ったんだけど(それくらいハマってた)結局行ってないんだよな。今どうしてるんだろ。
 なんかキャストのことばかり書いてしまったが、今になって内容について書こうとしても何から書いていいかわからんのだよな。最後に大雨の中をズブ濡れで到着して裸足でパフォーマンスするのはフェティッシュでいいよね。ソンちゃんの視点になると初めて舞台を踏んだ緊張というかフワフワした気分が主観の画で表現されてるのもよい。それから恵がいつの間にか寝てしまって現実からシームレスに夢の中のシーンに繋がってるところがあるんだけど、そのちょうど境目でトイレの鏡の前でソンちゃんと会話する場面、「バンドに誘ってくれて/歌ってくれてありがとう」と言い合うところは韓国語と日本語で会話が通じてるので普通に考えると夢なんだろうけど、気持ちが通じ合ってることを表現するいい演出。あと女子から見た男どものバカさ、無神経さもよく描かれている。全く頼りにならない甲本雅裕の先生も含め。

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