StarDust Tears

『ジョーカー』『THE BATMAN ―ザ・バットマン―』

早稲田松竹
この2本はまとめて書いたほうがよい気がするので一緒に。

 2本に共通するのはズバリ、トーマス・ウェイン(ブルースの父)の偽善性にフォーカスしたところですよね。確かにそれはノーランのバットマンがやらなかった部分で、『ダークナイト』と同じくらい実は『バットマン・ビギンズ』も好きな私ですけど、『~ビギンズ』で生前のトーマスはいかにもリベラルな大金持ちという感じに描かれていて、医者であり主にブルース個人の父親という側面が前に出ているものの、ウェイン・エンタープライズは鉄道を敷いたり雇用創出もやってるんだよくらいの描写だったわけです。でも事実上市全体を牛耳ってるレベルの巨大企業がある町であんなに貧困と犯罪が酷いことになってて市警も市政も腐りきってるって、それはお前らの責任も大なんじゃねえの? と思ってしまいますよね。

 で、まずは『ジョーカー』の方ですが、上記の通り私はご多分に漏れず『ダークナイト』大好き野郎なので、ヒース・レジャーのあのジョーカーの後でまたジョーカーの映画をやるってハードル高すぎでしょ、と思っていた。でもまあこれは人生に何の救いもないオッサンがジョーカーになるまでの話で、オッサンに刺さるオッサン映画だった。それはそれでアリだけど、もちろん『ダークナイト』におけるジョーカーに繋がるものではないし、バットマンにおけるジョーカー像としては後者の方がいいと思う。つまりジョーカーは自分がこうなったきっかけみたいな思い出話をしょっちゅう語るけど毎回全然違うエピソードで、全部ウソなわけです。やっぱ出自は不明じゃないとあのジョーカーは成り立たない。閑話休題。

 今回のジョーカーは一緒に暮らしてる母親が昔ウェインの屋敷で働いていた人で、今もウェイン信者みたいな感じで昔の誼で生活援助を求める手紙をトーマス宛に何通も出すんだけど返事は返ってこない。ジョーカーはそれを快く思っていない。しかもジョーカーが地下鉄で射殺した酔っ払い三人がウェインエンタープライズの社員だったことでトーマスは犯人を卑怯者のピエロ呼ばわりして非難する声明を出し、それに反発した貧困層の間でピエロ=ジョーカーが英雄的にまつり上げられる。トーマス・ウェインは明確に、格差社会で貧困層のヘイトを受ける大富豪として描かれているわけで、見た目もモロに保守的な大富豪キャラ。市長選に出馬して、お前ら貧困層にとって唯一の希望が自分なのにみたいなことも言うてしまう。そして、アーサー(ジョーカー)はトーマスが母ペニーに産ませた隠し子だったという話が出てくる。おお! ジョーカーとバットマンが実の兄弟だった! これはありそうでなかったんじゃないか? アメコミは同じキャラで何十年もやってる分あらゆる試行錯誤がされてると言ってもよく(それこそトーマス・ウェインが生きててバットマンになる世界線すらある)、これもコミックで一度くらいはやってるのかもしれないけど。ところが、その話は完全に母ペニーの妄想で、自己愛性人格障害やらを患っていた母親は問題を起こしてウェイン邸をクビになっておりそれどころかアーサーは養子で、ボーイフレンドができた母親は子の虐待で逮捕されていた、というアーサー自身が全く知らなかった過去が次々に明らかになり、彼のアイデンティティはガラガラと崩壊してしまう。この畳みかけもすごい。あの発作的な笑いも文字通り神経症の発作だし、もうジョーカーになるしかないところまで徹底的に追い込んでいく。
 そんなわけで最後は逮捕されたジョーカーを護送するパトカーが暴動に巻き込まれて事故を起こし、クルマからジョーカーを担ぎ出した男が路地裏でトーマス夫妻を射殺した犯人だった、という流れになる。間接的な父親殺しというにはちょっと緩いけど。

 『THE BATMAN』の方は、メインヴィランがリドラーなんだけどやってることは『ダークナイト』っぽくて、リドラーってこんなだっけ? と思ってしまった。つまりバットマン映画としてモロにノーランと同じ土俵で勝負しちゃってるけど、正直勝てるわけねえよなあ、という感じ。ブルースが病的な感じなのはちょっといい。ロバート・パティンソンてハリー・ポッターに出てたのか。つまりその世代か。アクションとしてはグラップネルガンで高いとこに上がったり、ビルから飛び降りてマント広げて滑空したりとかはまんまダークナイトだし、警察署内のシーンなんかも同じような画面で、絵的に唯一おっと思ったのはバットモービル。暗闇からバックトゥザフューチャーのアレみたいな青いリアクターみたいなの光らせて出てくるとこはやった! と思ったんだけど、出てきたら普通のクルマだったので拍子抜けした。ダークナイトの軍用車みたいなバットモービルもそれはそれでいいけど、こちらはもっとマンガ風のデザインに寄せることでダークナイトを超えられる可能性があったとしたらそこだけだったのに!
 いや、キャットウーマンもよかったですね。ゾーイ・クラヴィッツか。ダークナイト・ライジングのアン・ハサウェイも好きなんですけど、バットマンとイイ感じになる展開も悪くないし、あと、エロい。なんかマスクの目のとこが大きく開きすぎて鼠小僧みたいになってたけど。キャットなのに。
 まあ、ダークナイトとまともに較べちゃあかんという話はこれくらいにして、トーマス・ウェインですよ。この映画では回想するシーンもほとんどないのでトーマス自身の人物像は直接は見えにくいのですが、やはりゴッサム市長選に出て殺されたことになっている。そして、リドラーによって暴かれるのは、妻マーサ(アーカム家の出!)の精神疾患というスキャンダルを選挙中にスッパ抜かれるのを恐れたトーマスが付き合いのあったマフィアのファルコーネに依頼して記者を脅迫させ、聞かないとなるや殺させた、というもの。ブルースがファルコーネに直談判しに行くと「そろそろ来ると思ってた」とアッサリその話を認める。おお、バットマンの活動する動機そのものであるところの、殺された父親が、実は悪人だった! ということでこちらもアイデンティティ全崩壊ですよ。母親が精神疾患、というくだりが直接関係ない『ジョーカー』と横滑りに対応しているのも面白い。
 ところが、この話は執事のアルフレッドが否定したことでチャラになってしまう。アルフレッド曰く、家族を守るために記者を脅して口封じするようファルコーネに依頼したのは確かにトーマスの過ちだった、しかし後悔した彼は依頼を取り消そうとしたが、トーマスの弱みを握って利用しようとしたファルコーネはあえて勝手に記者を殺すところまでやってしまった、と。そりゃあいくら何でも話を綺麗にまとめようとしすぎてねえかアルフレッドさんよ、と私でなくても思うはずだが、どちらが正しいのか確証がないままファルコーネも殺されてウヤムヤになってしまう。『ジョーカー』では病院の記録やらでしっかり裏付けが取れるのとここは対照的。どう考えてもアルフレッドの証言は彼の立場的にも信用できねえだろという印象なのだが、いいんだろかこれで。あと、ファルコーネの説明では(ファルコーネに弱みを握られた)トーマスに市長になられたら困るマローニが彼を殺させたんじゃないかと示唆するのだが、アルフレッドの説では記者を謀殺した件を自ら警察に届けようとしたトーマスをファルコーネが殺させたんじゃないかという逆の話になるのもちょっと面白い。トーマスを射殺したのは基本的にはたまたま彼を襲った強盗で、ゴッサムの治安の悪さ自体が原因だからバットマンが自警活動に励むようになったわけですが、実はこの事件に黒幕がいたという話はコミックでもいろいろやってる。それを映画の中で話を二転三転させるみたいな趣向は少しいいなと思いました。
 で、ラストでジョーカーの登場が予告されて、実際に2もやるみたいだけど、どうなるんだろ。

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