StarDust Tears

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

 ダニエル・クレイグのボンドはこれが最後ってことで、観てきました。なにげにクレイグのボンド好きなんですよね。顔がわかりやすい二枚目じゃなく、どちらかというといかついというかむしろ悪役面じゃねえかってことで、決まった当時は反対の署名活動まで行われたって話がありますが、そのシブい感じとサム・メンデス監督のスタイリッシュな様式美がよく合ってるというか。まあ先代のピアース・ブロスナンが典型的なイケメンだったので落差はありましたよね。個人的にはブロスナンもわりと好きでしたけど。『探偵レミントン・スティール』の吹き替えは神谷明だったし(関係ない。

 クレイグのボンドは一作目が『カジノ・ロワイヤル』だからリブートでもあると言えるわけで(にしてはMのジュディ・デンチは前作から続投ですが)、そこから一つのサーガになってるのもいい。『慰めの報酬』はカジノ・ロワイヤルから直接続いてるし、それから何やかんやあって『スペクター』があって今回は引退したボンドの最後のアレになるという。

 しかし『ノー・タイム・トゥ・ダイ』ってタイトルはらしくないというか、それこそブロスナン時代のやつみたいじゃない? 『トゥモロー・ネバー・ダイ』、『ダイ・アナザー・デイ』、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』って並べたらどれがどれだかわからんでしょ。といって "Quantum of Solace" の邦題が『慰めの報酬』というのも意味不明すぎてアレですが。

 以下ネタバレ。って毎回書いてますけど今回は本当に観てから読んだほうがよいです。

 上にも書いたけどサム・メンデスの007は様式美の世界で、ダニエル・クレイグのキャラも相まってシリアスに寄りすぎ、007映画本来のバカバカしさがなくなっていたのが、『スペクター』で揺り戻しでバカ映画に振ったわけです。なにしろSPECTRE、悪の秘密結社である。映像は相変わらずスタイリッシュだったけど、内容はバカだった。
 で、今回はどうかというと、さらにバカになってた(笑。 対象者のDNAを組み込むことで特定の人間だけ殺すウイルス(『三体Ⅱ』に出てきたやつ!)でボンドだけ殺そうとしたら担当の科学者が裏切ってて逆にスペクターが全員感染して死んじゃうとか、島全体がその細菌兵器の大量生産工場になってるので英海軍がミサイル攻撃しようとしたら日露が揉めてる海域だったので戦争が起こりそうになるとか、なぜかその工場に酸のプール(?)があって落ちると溶けて死んじゃうとか、防護壁でミサイルが弾かれちゃうので着弾までに制御室から開けてやらないといけないんだけどやっと開けたと思ったらまた閉められちゃうとか、敵のボスが脱出する経路が畳返しでその下に抜け穴があるとか(ラミ・マレックだから、フレディ・マーキュリー日本贔屓だったもんね~と思ったがそうではなく、監督のキャリー・ジョージ・フクナガが日系で日本趣味らしい)、これぞ古き良き時代の007!的なバカな展開がてんこ盛りで素晴らしい。ボンドカーもアストンマーチンDB5に機関銃が仕込まれてるのは予告でやってたから期待してたけど、他にもスモークを焚いたり撒菱をバラ撒いてパンクさせるギミックなんかもあって笑った。

 ただ、バカすぎてわけがわからなくなってる点は多々あって、ラスボスのラミ・マレック as サフィンがどういうバックボーンのキャラなのかさっぱりわからない。オープニングシーンでなぜか能面を着けて幼少のマドレーヌを殺しに来るんだけど(ここの演出は完全にホラー映画)、家族をスペクターに殺された復讐と言ってるが、結局マドレーヌを殺さない理由もよくわからん。他人を洗脳して操るタイプの悪人のようなのでマドレーヌも十数年越しで利用しようとしてたってことなのか、でもボンドが彼女に裏切られてるんじゃないかと疑念を抱くのはこいつじゃなくてブロフェルドの仕業だったわけだよね。
 そのブロフェルドも、独房で厳重に監視されながらスペクターの集会を仕切っているという期待通りのムーブをしてると思ったら前述の通りボンドを殺すはずのウイルスで逆にスペクターが一瞬で壊滅状態になっちゃうし、独房の件は家捜ししたら仕掛けが見つかりましたみたいな感じでアッサリ終了するし、ボンドが面会に行って『羊たちの沈黙』的な協力関係になるのか? と期待したら死んじゃうし、この扱いは酷い。この「手を触れるだけで感染して死んじゃう」というバイオハザード感もいまひとつわかりにくい。

 それからこれはバカとは関係ないけど、マドレーヌ(レア・セドゥ)があんまりいいオンナじゃないんだよなあ。やはりボンドガールはもっと派手な美人がよいというか、ファム・ファタール感でいってもヴェスパーのエヴァ・グリーンに到底及ばないでしょ。まあボンドガールじゃなくボンドが所帯を持つ相手としては、ダニエル・クレイグ自身のシブさと合うという意味でもこれなのかもしれないが。

 あと今回でダニエル・クレイグは最後ということで、次のボンドは? 的な文脈でだと思うけどクレイグが「ボンドを黒人や女性にする必要はない」てなことを言って物議を醸してましたが、まあやるならボンドのキャラ改変じゃなく別のキャラ、それこそ00セクションの別のエージェントが女性とかでスピンオフやればいいじゃんと思ってたんですが、なんと今回ボンドの後任で007のナンバーを引き継いだのが黒人女性という、そのまんまをやってるやないですか。これを踏まえてのクレイグ発言だったのか。

 ていうかボンドが死んで終わりは007映画としてやっちゃダメでしょ! 今まで百回死んでてもおかしくないのに死なないのがジェームズ・ボンドであって、禁じ手とかそういうレベルの話じゃないと思う。エンドロールの後に「実は生きてた」的なカットがあるんじゃないか? と最後まで疑ってしまった。それこそ『ダークナイト・ライジング』みたいに、どう考えても死んでるのに現実か幻かわからない感じで登場するみたいなのでもいいからさ。でも生きてたとしても例のウイルスに感染してるのか。ダメじゃん。

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