StarDust Tears

八月のシンデレラナイン

 女子の高校野球もの。ソシャゲがリリースされた時点で(TVでCMを観て)気になってはいたんだけど、アニメ観てたらさらに気になったのでゲームも始めてみた。

89iwaki001.jpg

 直接のきっかけは、アニメ第3話から登場した一人応援団長こと岩城良美。女子の制服の上からマントのように学ランを羽織り学帽をかぶって、足下は下駄(!)、アゴに十字傷まで付いてるという今どきありえない蛮カラスタイル。「岩城良美」という名前からして明らかにドカベンの岩鬼を意識している。ハッパはくわえてないけど。私は本当にこういう変なギミックのキャラに弱いので、おかしなキャラが一人いると気になってそこからハマってしまうパターンが多い。ついでに言うと、もともと学ラン女子が好きなのである(笑。すぐにゲームをDLして始めた。

 メインストーリー上の主人公である有原翼は中学ではリトルシニアの全国大会優勝チームに在籍した選手だったが、女子は高校では甲子園に出場できないという現実に直面し、一度は諦めて野球をやめる。が、高校でかつての憧れの選手だった主人公(ゲームのプレーヤーキャラ、肩を故障して以下略)に出会って再び甲子園を目指し女子野球部を立ち上げる。という流れ。ちなみにゲームの主人公にあたるキャラはアニメにはいないので冒頭の流れは異なる。
 あとは概ねメンバー集めから始める弱小野球部もののセオリー通りの展開だが、普通このパターンだとギリギリの人数で野球部が成立するところ、ハチナイでは一年目から31人もの部員が集まる(笑。 ポジション練習で捕手が4人いるシーンがあったりして、ちょっとした名門校やないか! と。まあキャラが9人とか10人ではソシャゲとして成り立たないのはわかるが、たとえば他校の選手をいわゆるプレーアブルにして増やすという方向性もあったはずなので設定として思いきったなと。逆に他校は顔と名前が設定された中心選手が一人だけいて他はモブ選手という『リングにかけろ』のザコ敵チームみたいな感じである。今までのところは。
 それから、投手が本職のキャラがいないのが野球ものとしては一大特色といえよう。ほとんど前例がないのではないか。主人公の有原は基本、遊撃手である。中学で投手だったというようなキャラもいない。その代わり、多くのキャラ(ほぼ全員?)が投手をやる可能性がある(=投手のカードが実装されている)。これはシナリオ構造にも関わるので以下で説明したい。

89story01.png

 上の画像が実際のゲーム画面上でストーリーを表示したもの。左から右へという時系列で、上下二段に並んでいるパネルがチャプターという単位でエピソードの集合を表す。チャプターはそれぞれ何話かのストーリーで構成されその合間に野球ゲームとしての「試合」が挟まり、勝つと次のストーリーが解放されるという流れである。
 私がプレーし始めたのは先月の下旬でありまだ一ヶ月もやってないので精査し切れてはいないのだが、画像にあるように上段のチャプターは一本の線で結ばれており、これがいわゆるメインストーリーの部分。下段のは特定のキャラクターにフォーカスしたエピソードなどサブストーリーの位置づけと捉えて概ね間違いないと思う。そして、少なくともサブの側はチャプター単位で他との整合性を考慮しない、いわゆる別の世界線として書かれているものがあるようだ。たとえばある練習試合の相手校を「去年の春大会でノーヒットノーラン食らった」と言うてたりするが、メインストーリーでは春大会は優勝している、など。これによってポジションも固定ではなく、あるチャプターでは地味な子がスタメンに抜擢されたり、意外なキャラが投手に起用されたり、といったバリエーションをストーリー展開の制約を受けずに描ける利点がある。時期によってはまだ部員の人数が少ないので、負傷した有原の代わりに左投げの野崎がショートに入る、などのアツい展開もある。
 公式サイトの人物相関は一般的なチャート形式ではない独特の表現だが、メインキャラ31人が全員どこかに収まっている(はず)。巨人ファンと阪神ファンの諍い(のようなもの)あり、イマドキのJKっぽいグループは何かというと練習をサボろうとするなど、野球部あるあるネタ的な要素もあり。
 その意味では、ポジティブ野球バカ的なヒロイン有原よりも、視点人物として活きるのは野崎夕姫だったりする。長身グラマー体型の金髪美人で、野球部創立時メンバーとしてゲーム上も初期実装されていた(はずの)メインキャラの一人。恵まれた体格と身体能力で中学ではバスケ部に所属したが、自己主張や闘争心は弱く良い子すぎて必ずしも競技向きでない性格のため挫折した過去を持つ。有原が赤点を取って部活動禁止を食らった際には(逆境ナインみたいである)キャプテン代理を務め、そのまま裏番長ならぬ裏主将(実質は副キャプテンか)に収まった。甲子園という高い目標を掲げながらも楽しむ野球を第一義として初心者の多い野球部を率いる有原に対し、プロや大学で活躍する兄を持ち自らもそれを目標とする野球ガチ勢・東雲龍が加入してより厳しい練習の導入を主張した際には、野球部の空気の変化を敏感に感じとり危惧するのも野崎ちゃん。シナリオ上のキーマンの一人といえる。ダイエットして尻を小さくしたいとか言うてるシーンがあったので、何を言ってるんだ、野球選手としても女としても尻がデカいのは良いことだぞ! と思ったのだがプロフィールを見たらバストが95、ヒップは99だった。うん、……それはデカすぎるかも。閑話休題。

 そんなこんなで、野球ものとしてオイシイ要素をいろいろ取り入れやすい柔軟なシナリオ構造になっており、部分的にはよく出来てると思うのだが、軸になるメインストーリーはどうだろうか?
 ゲームのCMでも有原翼が「一緒に甲子園に行こう!」と言っており、「甲子園」がこの物語のキーワードであり野球部の最終目標であることは最初から明示されている。しかし、女子野球部が甲子園を目指すとは具体的にはどういうことなのか? は必ずしも明らかではなかった。
 前述の通り有原翼はリトルシニアの全国大会には男子に混じって選手として出場している。それと同様に「甲子園に行く」とは男子に混ざって大会に出場することを指しているのか? だとしたら女子野球部を創立するのはなぜなのか。それとも女子野球部で、男子の大会に参加しようとしているの? なぜ? そこらへんが全くもって曖昧なまま、「甲子園」というフワッとした目標だけを掲げてこのゲームは展開していた。

 ここで高校スポーツにおける野球の特殊性について述べておく必要があるだろう。高校野球の全国、いわゆる甲子園大会は春・夏とも新聞社の主催であり、その関係もあって高野連高体連に加盟していない。野球だけ高校の全国大会が「インターハイ」でないのはそのためである。(少なくとも高校の)野球人口が極端に男に偏っているのも高野連の組織の特殊性によるところが大きいはず。
 ハチナイのTVアニメでは、ゲームより先んじて「中学・大学には女子の硬式野球部があるのに高校には全くなかった」事実を指摘するという踏み込んだシナリオになっていた。どうしてそんな不自然な状況なのか? というと高野連がクソだから、という批判まであと一歩ではないか。もちろんそこはスルーして95年の国際親善試合を契機にようやく女子高校野球の全国団体が発足し全国大会開催の機運が高まり、現在加盟校はおよそ30校、と概ね現実に沿った状況が説明されるのだが、それこそ戦車道みたいにこの世界では女子高校野球が大盛況で全国大会も甲子園で行われているという設定にすればそれはそれで成立したのに、やらない。

 私が何を言いたいのかというと、既に現状において女子が甲子園に行きたいという目標設定そのものが無理筋なのではないか? ということである。現実世界でもときどき、(男子)硬式野球部の女子部員が高野連主催のいわゆる「公式戦」に出場できないのが同情的に紹介されることがあるが、そもそも野球に限らずあらゆる高校スポーツは男女別の競技なのであって、突き詰めれば男子の競技に参加したい理由は「そちらの方がメジャーだから」でしかない。歴史的に女子が高校で野球をプレーする環境が整っていないのは主として高野連のせいであり、女子選手に責任はないのだから気の毒ではあるが、それはあらゆるマイナースポーツに等しく言えることであり、「男子の大会のほうが注目されててメジャーだし憧れだからそっちに出たい」が他の種目で通用するかを考えれば答えは明らかだろう。

 そこで、ハチナイの物語の着地点である。
 ハチナイ(ゲーム)のシナリオのもう一つ面白いところは、必ずしも時系列順に発表されない点にある。先のスクリーンショット画像の左上に「一年生編」というボタンが見える。これをタップすると「二年生編」に切り替わる。一年生編とは有原翼らが入学して一年生の年度、二年生編はその翌年、彼女らが二年生になった年度のストーリー。一年目、二年目と言い換えたほうがわかりやすい。つまり一年目の話と二年目の話が並行して展開している。二年生編では進級した有原らの下に新入生が入学してくる展開が描かれ、新一年生らが追加キャラとして登場する。シナリオには何人かが先行して登場しているがカードとしての実装は一人目が追加されたばかり。ちなみに、一年目の時点で二年生の部員もいるので、彼女らは「二年生編」では三年生になっており、もう翌年度は卒業し、いないことになる。よっておそらく「三年生編」はなく、現状ある一年生編と二年生編でストーリーは完結するのではないかと考えられる。
 なので、二年生編やサブストーリーでは先の話が描かれているのに対し、一年生編のメインストーリーはまさに昨日、最新のチャプターで「7月下旬」のストーリーが公開された。そこで上に書き連ねた疑問点の一部は明らかになった。
 まず、女子野球部の「高女連」への加盟が承認されたことが明らかになる。あえて正式名称で書かれないがこれは全国高等学校女子硬式野球連盟のことだろう。問題はそのあと、「そもそも甲子園は男子野球の組織が運営しているから今回の話は関係ない」と明言、さらに「直接は関係ないけど次の話はその第一歩になるかもしれない」として、高女連からの夏の全国大会への参加招待が届いた、という話になる。その大会は「甲子園とは関係ない」「開催地は甲子園ではないけど」と繰り返し強調される。
 これで判明したのは、この野球部の目標は女子の全国大会ではなく、やはり既存の(=男子の)甲子園大会への出場であるということ。しかしこの流れでどう実現するんだ? なんで女子の全国大会じゃダメなの? という疑問に答えられるのか? 甲子園に拘る動機があるのは有原だけじゃないの? 既に展開中の二年生編の枠内でちゃんと完結するのか? など、謎は深まった。

 個人的には、既に女子高校野球の全国大会が規模は小なりといえども開催されているのだから、そこへ参加して盛り上げ、女子野球の益々の発展に寄与しよう! もちろん優勝も目指そう! というのがあるべき姿ではないかと思うのだが。あるいは女子大会で優勝した上で男子大会優勝チームとの頂上決戦を甲子園でやるとかさ。物語冒頭で有原翼の挫折と再起を描いているのに、肝心のその目標が捻れていると思えてならないんですよね。

 野球ゲームとしては、選手の能力値、スキル、調子、といったパラメータは明らかにパワプロを下敷きにしており、ある意味で緻密すぎると思う。試合は基本、見てるだけで打席単位の結果が表示されるのだがよく見るとボールカウントも動いているのでガチで一球ずつシミュレートしているっぽい。野球は確率統計のゲームだからどこかに不自然な部分があるとすぐ目につく結果に現れるものだが、このゲームではチーム力に大きな差がある相手と試合した場合、「一塁走者が単打で本塁まで帰ってきてタイムリーになる」ことがなぜか多いことに気づいた。ないとは言わないけど一塁走者が帰ってこられる打球なら大抵は打者も二塁まで行けるはずでは? そのへんの、ボールが外野から本塁まで戻ってくるタイミングと中継および進塁の判断、中継なしで本塁まで送球ならそれを見てから打者は二塁に向かうとか、リアルでは細かい機微がある部分を再現しきれず外野手の肩と走者の走力くらいの変数で判定して、全体として不自然に見える結果が出てしまうんだろうなあと。そう考えると野球のシミュレーションてメッチャ難しいと思う。
 ソシャゲとしては、選手のレベルは文字通り一瞬で上限まで上がるんだけど、強いスキルを取るのが手間で、しかも差は微々たるものなんだけどもうその部分でちょっとずつ強くしていくしかなくて、頭打ちになったチーム力(総合力が一つの数字に出る)をジワジワと伸ばして行くのがしんどい。アニメ化キャンペーンに乗っかってかなりスタートダッシュさせてもらったので始めるタイミングとしてはベストだったと思うけど、平常時は無課金だと全然ガチャ回せないのね。つらい。

 ところで私、野球マンガは好きだけどプロ野球にはほぼ関心がないので(高校野球は観戦する機会と習慣がなかなかない)、現実の野球には疎い。どれくらい疎いかというと、いまだにBSO式のカウントに慣れない。ドカベンも最終シリーズはほとんど読んでなかったし。早い話、2ストライク3ボールのことを昔はツースリーと言ったわけだが、今は何て言うの? スリーツー? 言わないよね? 先日久しぶりにTVでプロ野球を一試合、最初から最後まで観たのだが、どうしてもながら観になってしまって集中できず確認できなかった。けど違和感のある言い方はしてなかったと思う。よく考えたらツーエンドワンみたいな言い方はそのまま使えるわけで、ありえないのはツースリーだけか。じゃあフルカウントって言えばいいだけか。みたいなことかしら。

トラックバック(0)

コメントする