全6巻で完結したシリーズの新刊が出るというので何かと思ったらスピンオフ短編集だった。といっても後日談にあたる内容が大部分を占めるので実態は第7巻といっても過言ではない。ちなみに本編は角川文庫版がこの装画(酒井駒子)、そしてスニーカー文庫版はアニメのキャラ原案である岸田メル画だが、本編はスニーカー文庫で揃えたもののこれの岸田メル版は出ないか出るとしても当分先だろうと思ってこちらを買ってしまった。
シリーズ本編の感想も別のところに書いたのだが、その時は書きたいことをちゃんと書けた気があまりしなかった――今読むとこんなもんかなと思うけど。
さて、内容はアニメの映像ソフトやマンガ版の単行本などに特典として書き下ろした短編が三つ、そして表題作の中編は電子版の小説誌に連載してたとか。全然知らなかった。
短編三本は相楽深行の視点で書かれており、それぞれ本編中のこの時期にこいつはこんなこと考えてたのか、というのがわかる。深行は「優等生で外面はいいけどヒロインには優しくない」という典型的な少女マンガの相手役タイプで、和泉子の視点での本編では心底が見えない部分が多いので、それが書かれるというだけでもなかなかの趣向だ。オマケで書くレベルではない。
中編『氷の靴 ガラスの靴』は真響メインの話だが、本編ラストシーンである冬休みが明けた直後から始まるため、休み中に和泉子と深行の仲に進展があったことを察知した真響が、両者ともそのことを話してくれないのでやきもきして事態を探ろうとするくだりが既にムチャクチャ面白い。あの真響が思わず「和泉子ちゃんが私を置いて一足飛びに大人になっていたら、どうしようかと思ったよ」などと言うのである。真響をして「三年たった夫婦みたいに落ち着いちゃった」と言われる二人の仲も、なるほどこうなるのかと、特に和泉子のコメントと併せてみると納得いく描写になっている。
真響は和泉子の親友であり学園生活においては庇護者に近い立場でありつつ、能力者として学園を代表する「世界遺産候補」を目指す上ではライバルでもあり、そのために実力を示し人気を獲得し、女子の間で浮いたり反感を買わないようにも立ち回っているという、最も複雑な政治的マヌーバを見せる人物。さらに彼女のバックにいる支援勢力である戸隠忍軍に対しても、心臓疾患を持つ弟の真夏に依存する真響は一族当主の後継者として疑問視されており、また強力な神霊を呼び出して使役する能力に関しても既に一族では失われた技術となっていて理解されない。そのため真響の「婿」が一族にとっても重要で、一方学園でも人気のある男子とくっつくと女子コミュニティを敵に回しかねず、自分と同じように立ち回りの巧い深行をダミーの彼氏にしたいのだが和泉子との関係上それも難しいなど、恋愛沙汰と政治が密接に絡んでいるのが真響の面白さ。主人公でもないのにこれだけ込み入った立場が描かれているのはほとんど奇跡的で、並のストーリーテリングではない。だからさすがに本編で書き切れていなかった戸隠サイドの話を真響視点で書くのは必然でもあるし、ただの後日談ではない内容になっている。個人的には、ある意味で最も忍者らしい忍者として振る舞っているといえる早川先輩がフィーチャーされてたのも嬉しい。それも、さらに続編が書けそうな匙加減で。
あとがきではそれぞれ初出についてなど解題が書かれていてこれも興味深い。本編では一番最後に総括的なあとがきがあっただけだったからな。少なくともスニーカー文庫では。中編についてもこれだけ行き届いた内容を仕上げておいて「和宮の見せ場を作れなかったのが惜しい」とか書いてて、すごい目配りだなと思った。
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